COLUMN
属人化はなぜ解消しないのか|マニュアルで戻る4つの理由と、AIを前提にした解消の順番
- 戻る原因は、手順だけを残して、判断の基準を残していないこと。「ケースバイケース」の中身は、書き出さない限り経験者の頭に残る
- 人とAIで分ける。材料集め、型どおりの作業、基準に沿った一次の確認はAIへ。基準づくり、例外の判断、関係づくりは人に残す
- 書くことを、仕事の終わりの動作にする。記録が追加作業のままだと、忙しい週に最初に削られる
マニュアルを作った。引き継ぎもした。それでも半年たつと、新人は迷うたびに、結局あの人に聞きに行きます。属人化の解消に取り組んだ会社の多くが、この場面を経験しています。
戻る理由は、マニュアルが得意なのが手順までだからです。「この案件は先に進めてよいか」「どこまで直せば合格か」といった判断の基準は、書かない限り、経験者の頭に残ります。属人化の中心は手順より判断にある、というのが筆者の見立てです。
この記事は、従業員10〜300名の会社の経営者・人事・部門長に向けて、属人化がなぜ戻るのかを4つの理由に分け、AIを前提にした解消の順番を書きます。判断の基準を書いて残すときの運用の目安も、そのまま使える書き出し表つきで載せます。
- 属人化は、手順・材料・判断の基準の3つが人に張り付いている状態。マニュアルが得意なのは手順で、判断の基準は書かない限り人の頭に残る。戻る理由は4つある(1章)
- 解消の順番は、判断の基準を書き出す → AIに渡す部分と人に残す判断を分ける → 記録が仕事の中で自動で残る形にする。AIを入れる前に、いちばん上の層を決める(2章・3章)
- 書いた基準が続くように、基準の置き場、人が決める範囲、記録の残し方の3つを決めておく。Zeyra の運用で確かめた目安を載せる(4章)
01属人化はなぜ解消しないのか:人に張り付いているのは手順だけではない
属人化とは、特定の人にしか仕事のやり方や状況が分からず、その人が休むと止まる状態のことです。「知識が特定の人に偏っている」と説明されることが多い言葉ですが、中身を分けて見ると、人に張り付いているものは3つあります。
人に張り付いている3つの層
中身の例どの順に何をするか。画面の操作、送る相手、締め日
マニュアルで残る
残し方手順書に書く
中身の例資料の置き場、過去の経緯、顧客の事情
マニュアルで半分は残る
残し方置き場と名前を決める
中身の例これは出してよいか。この条件は受けてよいか。どこまで直せば合格か
マニュアルで残らない
残し方基準を言葉にして書き出す
「あの人にしか分からない」と言われる仕事の中身は、手順より判断であることが多い、というのが筆者の見立てです。手順は新人が1週間ついて回れば身につきます。判断の基準は、何年も同じ仕事をした人が、過去の例から身につけた感覚で、本人も言葉にできていません。
実態を示す調査もあります。NTTデータビジネスブレインズが経理管理職221人に聞いた調査では、87.8%が、自部署に特定の担当者へ業務が集中していると回答しています(DX Magazine、2025年10月4日掲載。調査時期は掲載記事に記載がなく、対象は経理管理職です。全職種の割合ではありません)。
マニュアルを作っても戻る4つの理由
「マニュアルを作ったのに、結局あの人に聞いている」。筆者が見てきた範囲では、戻ってしまう会社は次の4つのどれか、または複数に当てはまります。
理由1:手順は書けても、判断の基準が書かれていない。手順書は「Aを開き、Bを入力し、Cに送る」まで書けます。けれど担当者が実際に迷うのは、「この案件はCに送ってよいか」という場面です。経験者はその判断を、過去の例から身につけた基準でしています。基準が書かれていないので、新人は手順どおりに進めても、迷った場所で止まって聞きに行きます。「マニュアルはあるのに使われない」は、この場面で起きます。
理由2:書いた日から古くなる。業務は変わりますが、マニュアルの更新は誰の仕事でもありません。気づいた人の善意に頼る限り、半年もすると実態とずれます。ずれたマニュアルは信用されず、見られなくなり、さらに更新されなくなります。
理由3:探すより、聞くほうが早い。経験者は忙しくても、聞かれれば数分で答えてしまいます。マニュアルを探して読むより、聞くほうが早い。聞く側も聞かれる側も、合理的に動いた結果として、頼りが特定の人に集まっていきます。
理由4:記録が、仕事の外の追加作業になっている。手順や経緯を残すことが、本来の仕事とは別の作業になっていると、忙しくなった週に最初に削られます。書く時間が評価に映らない職場では、なおさらです。残す作業が仕事の外にある限り、どんな立派なマニュアルも長続きしにくくなります。
よくある対処は、4つの理由のどこに効くか
よくある4つの対処を、4つの理由に当てて整理しました(Zeyra の整理です)。
効くところ理由1のうち、手順の部分
効かないところ理由1の判断の部分、理由2・3・4
結果直後は静かになるが、半年ほどで元に戻りやすい
効くところなし
効かないところすべて
結果基準が言葉にならないまま渡り、次の人が属人化しやすい
効くところ理由3の一部
効かないところ理由1・2・4
結果基準がそろわず、担当によって結果がばらつきやすい
効くところ置き場(材料)
効かないところ理由1・4
結果入れ物はできるが、入力が続きにくい
02どうすればいいか:AIを前提にした、属人化解消の順番
従来の順番は、マニュアルを作り、引き継ぎをして、ツールに入れる、というものでした。AIを前提にすると、順番が変わります。先に基準を書き、人とAIで分け、記録を仕事の中に埋め込みます。全体は4つの手順です。
最近の判断を5件選び、なぜそう決めたかを話してもらい、「〜なら〜する」の形に整える
人が決める基準が書けた判断は、材料集めと一次の確認をAIへ。基準・例外・関係は人に残す
人が決める録音から議事録が起き、作業の終わりに実施内容が1行残る。書くことを追加作業にしない
AIが行うAIの出したものを人が直したら、その直しを基準に書き足す。月に1回は見直す
人が決める手順の前に:自社の属人化の型を見分ける
3つの層に、人との関係を加えて、属人化を4つの型に分けます。型によって、最初の一手が違います。自社の症状に近い列を探してください。
症状やり方を知っているのが1人で、その人が休むと止まる業務がある
最初の一手手順を箇条書きか画面録画で残す
AIに渡せるか渡せる(手順の下書き、記録)
症状最新の資料や経緯の置き場が、特定の人に聞かないと分からない
最初の一手置き場と名前のルールを決める
AIに渡せるか渡せる(探す、まとめる)
症状同じ依頼でも、担当者によって返事や出来が違う。新人がマニュアルどおりに進めても、途中で聞きに行く。「場合による」の中身が説明されない
最初の一手判断の基準を書き出す(手順1)
AIに渡せるか材料集めは渡せる。決めるのは人に残す
症状「あの人だから取引が続いている」という関係がある
最初の一手同席や紹介で、関係を複数人に広げる
AIに渡せるか渡さない。人に残す
この記事は、C型を中心に書きます。A型とB型は、業務棚卸の記事の記入表(「いま誰が」の列に、休んだら代わりがいるかを書く)で見つけられます。D型は、解消せずに残してよいものも含みます。
手順1:判断の基準を書き出す
担当者に、最近の判断を5件選んでもらい、なぜそう決めたかを話してもらいます。話した内容は、録音して文字起こしし、AIに整えてもらえば、本人が文章を書く負担は減ります。整えるときは「〜なら〜する。ただし〜のときは〜」の形にして、良い例と悪い例を1件ずつ添えます。書けない判断は、書けないままにせず「人が決める」と書きます。
基準の書き出し表は、次の形で使えます。上の3行は記入例です。
| 判断 | 基準(〜なら〜する) | 例外・迷ったとき | 決める人 |
|---|---|---|---|
| 新規商談か | 件名が「【商談】社名|担当者名様」の形なら、新規商談として扱う | 形式から外れた予定は、人が確認して件名を直す | 基準は責任者が決める。動かすのは仕組み |
| 新しいファイルをどこに置くか | 新規ファイルは、まず作業中の置き場に作る。行き先が最初から決まっているものは、正規の置き場に作る | 迷ったら作業中の置き場に作り、行き先が決まったら移す | 作成した担当者 |
| AIの作業結果を、人が確認するか | 外に出るもの、お金、人の評価、戻せないものは、人が決める。それ以外はAIが決めて進め、記録に残す | 迷ったら、人が決める側に倒す | 責任者 |
| (御社の判断) |
手順2:AIに渡す部分と、人に残す判断を分ける
基準が書けた判断は、材料集めと一次の確認をAIに渡せます。基準を決めること、例外の判断、関係づくりは人に残します。分け方の表は業務棚卸の記事にあります。
- 判断の材料集め(過去の例、資料、数字)
- 型どおりの作業と、下書き
- 基準に照らした一次の確認
- 記録(文字起こし、議事録、作業記録の下書き)
- 判断の基準を決める
- 基準に当てはまらない例外の判断
- 顧客や社内との関係
- 基準の見直し
手順3:記録が、仕事の中で自動で残る形にする
商談の録音から議事録が起き、作業の終わりに実施内容が1行残る。書くことを追加作業にしない、という設計です。記録が仕事の終わりの動作になっていれば、忙しい週に削られにくくなります。
手順4:例外が出たら、基準に足す
基準は一度で完成しません。AIが基準に沿って出したものを人が直したら、その直しを基準に書き足します。月に1回は、足した基準を見直します。
AIを前提にすると、戻りにくくなる理由
1章で見た理由2〜4(更新されない、聞くほうが早い、記録が追加作業)は、どれも人の善意に頼った設計から起きています。AIを前提にすると、この3つの形が変わります。
| 1章の理由 | これまで | AIを前提にすると |
|---|---|---|
| 理由2:書いた日から古くなる | 更新は誰の仕事でもなく、気づいた人の善意に頼る | AIの出したものを人が直したら、その直しを基準に足す。更新が別の仕事にならない |
| 理由3:探すより、聞くほうが早い | 探すより、経験者に聞くほうが早い | 新人は経験者に聞く前に、基準に沿った一次の確認をAIから受け取れる |
| 理由4:記録が追加作業になっている | 記録が仕事の外にあり、忙しいと削られる | 議事録や作業記録がAIで自動で起き、記録は仕事の副産物として残る |
3つの理由は、どれも人の善意に頼る設計から起きます。記録と更新を仕事の中に埋め込むと、頼らずに済む部分が増えます。
属人化がなくなる、というより、誰が何を決めているかが見える形になります。AIが仕事を持つほど、人に残るのは「何を任せ、何を人が決めるか」を決める組織の仕事です。属人化の解消は、その決め事を書き残す作業にあたります。
今日やること(30分)
- 図5で、自社に近い型を確かめる(5分)。C型の症状が多いかを見ます
- この1週間で「あの人に聞かないと決められなかった」ことを、3件書き出す(10分)。仕事名ではなく、聞いた中身を書きます
- そのうち1件を「〜なら〜する。ただし〜のときは〜」の形で書き、本人に見てもらって直す(15分)。手順1の書き出し表をそのまま使えます
03注意点:やってはいけないこと
手順を進めるときに、避けたいことが4つあります。あわせて、AIを入れたあとに起きやすいことも1つ挙げます。
やってはいけないこと4つ
- マニュアルの冊数で、解消を測る。手順は増えても、判断は残ります。測るのは、「あの人に聞かずに決められた判断の数」です
- 基準を書く時間を、担当者の善意に任せる。書く時間を業務として確保し、書いたことを評価に入れます
- 全業務を、一度に書き出そうとする。表が大きくなるほど更新されにくくなります。1本の流れの、判断1つから始めます
- 属人化している人を責める。多くは、その人が優秀で、頼られてきた結果です。構造から直します
AIの指示文も、人に張り付く
筆者が見てきた範囲では、AIを入れたあとに、AIへの指示文が個人のチャット履歴にだけ残っている会社があります。その場合、属人化は人から「その人のAIの使い方」に移っただけです。指示文も、判断の基準と同じ場所に置き、誰でも見られる状態にします。
04運用の目安:判断の基準を書いて残す3つのこと
判断の基準を書いて残すとき、運用で確かめた目安を3つ挙げます(2026年10月時点)。
1. 書き足す前に、置き場所を判定する。AIに毎回読ませる指示ファイルは、毎回読み直されるので、足すほど重くなります。毎回守る恒久ルールは本体、特定の作業でしか使わない手順は別ファイルで本体には入口だけ、変わる事実は別の記録へ、と置き場を分けると、基準が増えても人もAIも読み切れます。
2. 人が決める範囲を、種類で線引きしておく。外に出るもの、お金、人の評価、戻せないもの、ブランドや好みは、人が決めます。これに当たらない内部の判断はAIが決めて進め、何をどう決めたかを記録に残します。迷ったら、人が決める側に倒します。
3. 作業を終えるたびに、記録を1行残す。記録に書かれていない作業は「なかったこと」とみなす、と決めておくと続きます。記録が仕事の終わりの動作になるので、別の作業として削られません。
この型で商談準備を組むと、同じことが起きます。「新規商談かどうか」は、以前は担当者がカレンダーを見て判断していました。基準を「件名が【商談】で始まる」と書けた時点で、この判断は人から外れ、仕組みが動かすようになります。商談準備全体では、導入前は1商談あたり人の作業が4.5時間(実測)でした。これを15分、人の判断を2回に絞る設計にしています(15分は商談前の確認10分と送信の可否5分の合計として設計した時間で、導入後の実測は計測中です)。工程ごとの分け方は、商談準備のメソッドに公開しています。
05よくある質問と、まとめ
よくある質問
Q. 属人化の解消には、どのくらい時間がかかりますか?
会社全体を一度に解消しようとすると、終わりにくくなります。1本の流れの、判断1つから始めてください。1つの判断を書き出すだけなら、担当者との1回の会話から始められます。広げるのは、1つ回ってからで間に合います。
Q. 属人化は、悪いことですか?
特定の人が高い判断力を持っていること自体は、強みです。困るのは、その人が休むと止まることと、判断の基準が周りに共有されないことです。取引先との信頼関係のように、人に残してよいものもあります。図5のD型は、解消せずに複数人に広げます。
Q. 属人化を解消するのに、マニュアルはもう要らないのですか?
手順は残してください。この記事は、マニュアルをやめる話ではなく、マニュアルに足りない判断の層を足す話です。手順書の下書きや更新は、AIに渡せます。
Q. 社員が10人ほどの小さな会社でも、属人化の解消は必要ですか?
少人数ほど、1人が複数の仕事を抱えるので効きやすくなります。ただし、書く対象は1つで足ります。いちばん「あの人に聞く」が多い判断を1つ選び、書き出してください。
Q. 担当者が、業務の判断の基準を書きたがりません。どうすればいいですか?
文章で書かせる必要はありません。最近の判断を5件話してもらい、録音して文字起こしし、AIに「〜なら〜する」の形に整えてもらいます。本人は、整った文章を読んで直すだけです。書く時間を業務として確保し、評価に入れることも合わせて決めてください。
Q. 属人化した業務の基準を、そのままAIに学習させればよいですか?
先に基準を書く作業が必要です。書いた基準は、AIへの指示文としてそのまま使えます。顧客や社員の個人情報を含む場合は、外部のAIサービスに入力する前に、利用目的と扱いを決めてください。
まとめ:属人化の解消は、判断の基準を書き残すことから
- 戻る原因は、手順だけを残して、判断の基準を残していないこと。「ケースバイケース」の中身は、書き出さない限り経験者の頭に残ります。
- 人とAIで分ける。材料集め、型どおりの作業、基準に沿った一次の確認はAIへ。基準づくり、例外の判断、関係づくりは人に残します。
- 書くことを、仕事の終わりの動作にする。記録が追加作業のままだと、忙しい週に最初に削られます。
AIが仕事を持つほど、人に残るのは判断と、組織の仕事です。属人化の解消は、その判断を書き残すところから始まります。
この記事を書いた人
本記事の数値・制度は2026年10月時点のものです。各社の取り組みは公開情報をもとに Zeyra が整理しました。引用・転載は出典(https://zeyra.co.jp/column/zokujinka-kaisho/)を明記のうえ、ご自由にどうぞ。
御社の属人化がどの型かを見分け、判断の基準の書き出しから、AIに渡す範囲の決め方まで、工程に分解してお出しします。準備は不要です。
無料相談(30分)を申し込む出典・参考
- NTTデータビジネスブレインズの調査(経理管理職221人)。DX Magazine「経理業務の属人化深刻化 87.8%が「あの人しかできない」業務を抱えている?」2025年10月4日 dxmagazine.jp/news/2544ukre33(掲載記事で確認。調査の実施時期は記事に記載なし。二次情報)
- 判断の基準を書いて残す運用の3つの目安(置き場所の判定、人が決める範囲の線引き、作業ごとの記録)は、Zeyra の運用で確かめたもの(2026年10月時点)
- Zeyra株式会社「商談準備をAIに任せる」(公開 2026年10月12日)。導入前の人の作業4.5時間は実測。導入後の15分・人の判断2回は設計値で、15分は確認10分と送信の可否5分の合計として設計した時間。導入後の実測は計測中 /method/meeting-prep
- 属人化の3つの層(手順・材料・判断の基準)、4つの型、解消の順番は Zeyra の整理(2026年10月時点)